おれ的わたし的2012ベスト | ||
■お名前
江利川侑介
UniMusiCa
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1 V.A. /Um Abraco no Raphael Rabello 80年代以降のブラジル音楽において最高のギタリストでありながら夭逝したハファエル・ハベーロ。本作は生きていれば2012年で50歳を迎えたハファエルへオマージュを捧げ、彼からの影響を公言する現代の巨匠ギタリストが彼に捧げた曲を作曲し、ショーロのスタイルを基本に演奏したアルバム。マウリシオ・カヒーリョ、マルコ・ペレイラ、ジョアン・リラ、ホジェリオ・カエターノ、ヤマンドゥ・コスタなど、個性溢れるギタリスト(一部他の楽器奏者もあり)に作曲させることでハファエル・ハベーロという一人のギタリストが内包していた伝統とモダンを多角的に炙り出そうという試みがなんとも面白い。加えて弦、管、パーカッションいずれにおいても、演奏者は全て現代の最高峰のミュージシャン。作曲以上に各人のサボール=味わいがまた堪らない。ヤマンドゥとアミルトン・ヂ・オランダ(ブラジル風マンドリン)のデュオにおける懐の広いサンバ・リズムの解釈にブラジル音楽の奥深さが凝縮されている。 2 Cacapa /Elefantes na Rua Nova ブラジル・ペルナンブーコ州の作編曲家/ギタリスト/プロデューサー=カサッパ初のソロ・アルバム。ブラジル音楽の特徴でもある多種多様なギター・アンサンブルを音響派以降の感性で構築。ティナリウェンみたいなんだけど、どこかクール。この距離感は研究家肌のプロデューサーという感じ。初のブラジル旅行の目玉としてペルナンブーコで色々面白い音源仕入れてきたんだけど、2012年リリースという意味での当たりはコレ。 3 Edgardo Cardozo /6 de Copas 相変わらず充実しているアルゼンチン。一方で個人的には飽和状態という気もした。カルロス・アギーレは新作『オリジャニア』で、そんなシーンをある意味総括して見せたが、プエンテ・セレステのエドガルド・カルドーソはヴォーカルとギターのみというシンプルなスタイルでフアン・キンテーロ以降のコンテンポラリー・フォルクローレ・シーンに新たなスタンダードを掲示した。 4 Antonio Loureiro /So ウェブ・ダカーポへ拙稿を掲載していただいてます。(http://webdacapo.magazineworld.jp/culture/music/96991/) 「ポピュラー・ミュージックとしての色気がない」という評を読んだが、同じ系譜の先輩にあたるアンドレ・メマーリやに比べれば、洗練されていない部分があり、そこが魅力だと思っている。 5 Alexandre Andres /Macaxeira Fields 若干22歳という作編曲家/フルート奏者アレシャンドリ・アンドレスの2ndアルバム。プロデュースをアンドレ・メマーリが務めているのがポイントで、ロウレイロの『ソー』と同じような熟達した音楽能力と若々しい感性を持ちながらも、それを洗練の極みといったアレンジで纏め上げている。現代最高の音楽家の一人であるアンドレー・メマーリだが、時折その凄みに近寄りがたさを感じるのも事実。しかし本作ではその圧倒的な才能がベストの形で発揮されていると言えるだろう。ミナスはもちろん、サンパウロやブエノス・アイレスといった親交の深い音楽シーンから代表的なアーティストがほぼ全員参加し、終始ポジティブな雰囲気を保っているのがとにかく感動的だ。濱瀬元彦さんが「クルビ・ダ・エスキーナみたいだね!」と仰られていたが、まさに至言。現代南米音楽の象徴のようなアルバム。 6 Rafael Martini /Motivo ミナス新世代シーンの中心人物である作編曲家/ピアニスト=ハファエル・マルチニの初ソロ作。才能溢れる人材には間違いないのだが、客観的に聴くとインディー特有の物足りなさを感じる面もありつつ、結局は何度も聴いてしまい、心底惹き込まれている自分がいる。 7 Andre Mehmari, Chico Pinheiro, Sergio Santos /Triz 国内盤の解説を書かせていただいた。各音楽雑誌で多くの評論家が年間ベストに選んでおり、なんだか自分の作品のように嬉しい気持ちだ。この作品は各自が楽曲のアイデアを持ち寄り、スタジオで作り上げるといったそうだ。にも関わらず、どの曲もまるで昔から演奏されているかのような親しみやすさと格調高さが同居している。三者三様といった作風の3人だが、音楽を創作する際に非常に高いところでヴィジョンを共有できるというのが本当に凄い。 8 Akron /Voyage of Exploration キラーボングの『トーキョーダブ』を連想したが、やはりこの軽さはマーティン・デニーを持ち出したほうがしっくり来る。 9 Meridian Brothers /Desperanza 同じ流れで気に入った。クンビアを筆頭に南米のダンス・ミュージックをヒネクレタ感性で再構築したコロンビアはボゴタの鬼才によるプロジェクト。キワモノにありがちなアイディア一発な軽さがなく何度も聴ける強度もある。なかなかどうしてな傑作。 10 Osumi /Prova Novo (MIX-CD) オオスミさんのブラジリアン・ミックス・シリーズ最新作。DJ向けのお店で働いていると本当に学ぶことが多い。客観的に見たブラジル音楽の魅力。欧米の音楽と比べ、何が優れていて何が足りないのか(もちろん求められるものによってその答えは変わってくるけれど・・・)。と同時に、現在進行形のシーンが最も面白いのはもちろんだが、いまだアーカイブ化されないレコードから学ぶことが多すぎる。CD化もされていない無数のLP、EPを東京にいながら聴くことができるのは大きな財産。 |
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■2012年以前にリリースされた作品で、よく聴いた音楽 Alessandra Leao /Dois Cordoes 年間ベストであげたカサッパの奥様で作曲家/歌手/パーカッショニストのアレッサンドラ最新作。1stから凄くファンだけど、サウンドの奥行きや分離のバランスなど録音面が良くなり、大きな音で聴いたときのフィジカルな心地よさが増した。アフリカやアラブの影響を取り込む研究家肌なところも相変わらず面白い。 Dorival Caymmi /Amor e Mar (8CD-BOX) Gal Costa /Canta Caymmi 2012年は初めてブラジルを体験できた記念すべき年だった。なかでもドリヴァル・カイミの出身地であり、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジルなどの偉大な音楽家を輩出したバイーアに行ったことで、やっとカイミの素晴らしさを理解したような気がする。地方の象徴でありながらブラジル中のミュージシャンにカバーされるルイス・ゴンザーガと並びブラジル史上でも類を見ない最高の作曲家。 Andre Mehmari /Canteiro 昨年リリースされたアンドレの集大成的2枚組。ブラジル音楽が世界中の音楽の混血と考えるなら、今日までに存在したすべての音楽の結晶という感じすらする。クラシックのような荘厳さ、現代音楽のような刺激がありつつも、それらの要素を包み込むように歌曲としての普遍的な魅力が常に存在している。歌詞対訳を読みながら聴くと感動が10倍。 Egberto Gismonti関連作 ブラジルEMI音源やECMから未発表音源がリリースされたこともあり、ケペル木村&柳樂光隆両氏と「極める」@国立No Trunksを2回開催。この巨木のような音楽家について色々と考える機会が多かった。 Guinga関連作 こちらも濱瀬元彦&花田勝暁両氏と「音楽を深化させている最高水準の現代ブラジル音楽を聴く」@四ッ谷いーぐるを開催。南米音楽の新世代とドリヴァル・カイミら古い世代の接続を考える上で浮かび上がってくる存在であるにも関わらず、ここ数年語られることの少なかったギンガについて自分も随分勉強になりました。 ブラジルのギターもの ギンガを筆頭にガロート、ハファエル・ハベーロ、パウロ・ベリナッチ、アルトゥール・ネストロフスキーなど、ギターのみ、もしくはギター&ヴォーカルといったシンプルな編成ものを随分買いました。 |
■今年のこの1曲
Alexandre Andres /Ala Petalo
■ライブ、イベント等々で良かったもの http://unimusica.blog.shinobi.jp/Entry/63/ ブラジル北東部レシーフェのカーニバル!!!!! |
■音楽以外のベスト10 ロス・バルバドス。 http://los-barbados/ 不定期でメニューに加わる「ゾロアスター教のカレー」が絶品。 バール・ボッサ http://www.barbossa.com/ バー・ブレン・ブレン・ブレン http://blenblenblen.jp/ バー・ミュージック http://www.musicaanossa.com/ (以上、渋谷) バオバブ http://wk-baobab.com/ (吉祥寺) アパレシーダ http://aparecida.pokebras.jp/ (西荻窪) ノー・トランクス http://notrunks.jp/ (国立) ・・・といった音楽関連の酒処にも大変お世話になりました! |
■自己紹介
ラテン・ブラジルを中心としたワールド・ミュージック部門バイヤー。ときどきライター。
ディスクユニオンのワールド部門専用のFACEBOOKが始動してます。是非「いいね!」をお願いします。
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■2012年はどんな年?
ブラジル旅行と、アンドレ・メマーリらの『トリス』、ロウレイロの『ソー』リリース絡みのイベントや原稿執筆などが大きな思い出でした。
世相的には2012年でひとつ潮目が変わったというのが僕の周りの人間の共通認識。2013年も何卒宜しくです。