おれ的わたし的2012ベスト


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2012年にリリースされた音楽で、良かったものベスト10

1.Moritz Von Oswald Trio / Fetch
今年一番よく聴いたアルバムです。モーリッツが流すリズムの上で他のメンバーがパーカッションとシンセサイザーを即興的に演奏し、エンジニアがリアルタイムでダブ処理を施した音源…という情報だけ見ると「ああ、似たような音楽沢山あるな」と思ってしまうかもしれません。しかしそこは流石「ミニマル・ダブ」という新しいジャンルを作り上げた男のプロジェクト、安易なインプロヴィゼーションの垂れ流しに留まることはありません。フィル・スペクター、ブライアン・イーノ、リー・ペリーのようなスタジオ全体を楽器として認識してきた人たちが作り出してきた完成度の高い録音芸術の系譜にこの作品も入るのではないか、そう思える程この作品はレベルが高いです。手を伸ばせば捕まえれるのではないかと思えるような左右に乱れ飛ぶ電子音、すぐ目の前で演奏しているのでないかと勘違いするようなパーカッションの生々しさ、無駄の無いベースライン…立体的で豊かな音像にまずは圧倒されます。これは、エンジニアが第4のメンバー的な存在として音響処理やレコーディングに深くアプローチしているためだからだと思われます。ビンテージ機材オタクで有名なモーリッツがこの作品のために幾つもの高価な電子機材やマイクを使用していることも関係あるかもしれません。この作品の肝は一にも二にもこの圧倒的な音響である事は間違いない事ですが、繊細な各声部の演奏にも注意を払うとよりこの作品を楽しむことが出来ます。一曲目のハイハットの音量やフィルターのかかり具合、残響の微妙な変化にすぐには気付かないかもしれません。しかしそれが全体のグルーヴやインプロヴィゼーションに大きな影響を与えていることが判ると、他の声部との絡み合いや変化がより楽しめることになるでしょう。3連で跳ねたように鳴るキック&ベースと4連で鳴るシェイカーの絡みがスリリングでポリリズミックな印象を与える4曲目の冒頭は好きな箇所です。その後シェイカーが抜けることで3連のグルーヴ感が強調されズブズブとした展開に移り変わるのもインプロヴィゼーションっぽくて面白いです。このアルバムは決して大きな話題をさらった作品ではありませんし、空間処理を多用したプロダクションは今の御時世からするとちょっと野暮ったく思えるかもしれません。それでも電子音楽に大きな足跡を残した男が未だに素晴らしい作品を作り続けている事や、マスタリングでよっこいしょと音圧を持ち上げた様なヒップホップ的なプロダクションの作品が目立つ中(決してそれが悪いわけではありませんが)ヨーロッパからこうしたアプローチの作品が届くのが嬉しいですし、僕も奮い立たせられるのです。

2&3. Andy Stott / Passed Me By / We Stay Together(CD2枚組日本盤) Andy Stott / Luxury Problems
昨年発表された二枚のEPをまとめた「Passed Me By / We Stay Together」は、ずしりと重たいサイドチェーンの嵐が圧倒的な作品でした。フライング・ロータスとダディ・ケヴが「ロス・アンジェルス」でキックやベースが鳴ると上物の音量が抑えられるようにサイドチェーンを設定したあたりから同様のアプローチを行うアーティストが急増しましたが、その中でもアンディ・ストットはベーシック・チャンネル的な深い音響の中でサイドチェーンを使い倒すことでまた新たな世界を作り上げることに成功し、注目を集める事になりました。前作から短いスパンを置いてから発表された「Luxury Problems」は前作の息が詰まる様なサイドチェーンの嵐は影を潜め、替わりに女性ヴォーカルをフィーチャーすることで幾分抜けが良く聴きやすい物になっています。前作以上に素材が生の状態で出されている部分が多いのも面白いです。例えば4曲目を聴いてみて下さい。高いヒスノイズを含んだシンセサイザーの様なノイズ混じりのループが全篇を通して鳴り響いていますが、最後にそのループにかけられていたエフェクトが取り払われ、機械が発したノイズをフィールドレコーディングしたものである事が判る様になっています。7曲目では一聴してドラムだと判る音が鳴らされており、そこに様々なエフェクトをオン&オフすることで生々しさを逆に際立たせる様になっています。リズムのアプローチは前作がフライング・ロータス的であるとしたら今作はセオ・パリッシュ的であると言うべきでしょうか、1曲目が擬似的な4つ打ちであるためにそのような印象を強く受けます。ただ4つ打ち的であるとはいえ、キックのサウンドは左チャンネルに偏っている上、ループの後半では4つ打ちの拍の頭が微妙に後ろにずれているのでリズムが伸び縮みしているような感覚を受けます。よくこんな変なリズムでキーがあるんだか無いんだか判らないようなビートに歌乗っけようと思ったなーと感心します。とにかく思いつく限りの変なアプローチを詰め込んだ作品であることは確かなので、是非皆さんも聴いてみて色々見つけてみて下さい。

4.Robert Glasper Experiment / Black Radio
ジャズ・ミュージシャンがラッパーやシンガーと組んで作ったアルバム…という情報だけ見ると「ああ、似たような音楽沢山あるな」と思ってしまうかもしれません。マイルスだって晩年に同様のアプローチでなんだか微妙なアルバム作ってますし。ジャズ・ミュージシャンがニルヴァーナをカヴァーしているだって?そんなのハービー・ハンコックだってやっていたじゃん…とまあ、事前情報だけでは凄く不安な要素の多いアルバムでしたが、聴いてみたら素晴らしい作品で安心を通り越して吃驚しました。なんといってもドラムが凄い。一般的な生ドラムのサウンドは最初にアタックが来て、その後徐々に減衰していきます。ところがこのアルバムのドラムの音はその様には鳴っていません。例えばスネアのサウンドは中域が強調され、減衰して行く部分はコンプで抑えられた上に残響もカットされており、まるで古いサンプラーで鳴らしたかの如きサウンドになっています。キックが連続して「どどっ」と鳴る個所では微妙にそのキックの定位がずれていたりもします。生ドラムをサンプリングしてMIDIで打ち込んだ90年代のヒップホップの質感を現代の技術でシミュレートし、凄腕のドラマーに叩かせるという随分と倒錯した事を外連味なく堂々と行っている所が痛快です。このドラムサウンドの鬼気迫る徹底した作り込みから、グラスパー本人が切実に自分の中で咀嚼してきたヒップホップの話法を取り入れようとしたという事が伝わってきて、その過剰なまでの愛情の表出に僕の胸もぐっと来るのです。勿論この作品の魅力はサウンドの完コピというアイデア一発だけでは終わりません。例えば9曲目。トニー・アレンの作り出したアフロビートの様なドラムパターンの上で生ピアノがミニマルミュージックを思い出させるソロを取る部分には背筋が凍りました。思えばライヒのミニマル・ミュージックにはアフリカ音楽の影響が強かったし、初期のテープ作品「カム・アウト」は黒人の声が素材として使われていたよな…といった連想が自分の中で流れ出して止まらなくなりました。もしかしたら「ブラック・レイディオ」とは先人たちの記憶を呼び起こすイタコの様な装置の象徴なのかもしれない…そういえば故Jディラ的なドラムのアプローチといい切々とヴォコーダーで歌われるニルヴァーナのカヴァーといい、この作品には喪に服すかの様な死者への敬虔な哀悼の意を感じる…この作品はヴァン・ダイク・パークスの「ディスカヴァリー・アメリカ」の様に今現在存在し得ないもう一つのアメリカ音楽を提示してみせたのかもしれない…黒人音楽の偽史を作り上げて、そこに自分のよすがを求めようとした思考実験なのかもしれない…と深読みし始めたらキリが無くなりそうになりました。何度も何度も視点を変えて聞き返したくなる、想像力を刺激する素晴らしい作品だと思いますので皆さんも是非聴いて色々妄想してみて下さい。

5.aiwabeatz is TYMESLYCE / LOW BREND THEORY
店舗販売もFREE DLもされておらず作者本人から個人的に譲渡された音源ですがとてもよく聴いた作品ですのでランクイン。aiwabeatzが組んだトラックの上に様々なラッパーのアカペラを被せたブレンド音源(リミックス音源)を19曲収めたアルバムです。一聴してグッと来るのはドラムのサウンドが極めてロウビットで荒い事。そして特筆すべきは点描のように細かい音の連鎖で楽曲が成り立っている事。サンプルを細かく刻んで組み直す事で新しい音楽を作る行為自体は90年代ヒップホップの特徴で目新しい音楽制作方法ではありません。しかしaiwabeatzは細胞レベルの段階にまで音を細かく砕く事で結果的には90年代ヒップホップがかろうじて残していたソウルミュージックの残照までも打ち砕き、硬質で抽象的な独自の音世界を作り上げる事に成功しています。一小節以上伸びた音がアルバム全篇に渡って見当たらないことからもこの作業が徹底されている事が判ると思います。いくらサンプルを細かく刻む事が90年代HIPHOPの特徴であったとはいえ、ここまで徹底している人はあまりいません。この徹底した作業はベースの音にまで及び、この事により粘り気のある裏で乗れるグルーヴ(所謂「黒いノリ」)とはまた違った、テクノ畑のトラックメーカーが組んだブレイクビーツの様な独特な雰囲気を醸し出す要因の一つになっています。そういった意味ではこの作品はriow araiの「mind edit」から「survival seven」までのブレイクビーツ寄りの諸作品に近いと言っても良いかもしれません。また、jazzのレコードのほんの一瞬をASR-10という古いサンプラーでサンプリングして組み直したJan Jelinekの「loop finding jazz records」や、ハウスを極度に抽象化しつつもハウスミュージックの最低限の快楽性をほのかに残したsndの諸作品を思い起こさせたりもします。このアルバムが多くの人に聴かれる機会が訪れる事を願いつつ、https://soundcloud.com/tymeslyce で彼の音をチェック出来ますので紹介しておこうと思います。

6位以降は簡潔に…

6.Ricardo Villalobos / Dependent And Happy
ユーモアとクールを共存させたリカルド節は相変わらずでミニマル苦手な人にもお勧めしたい渾身の大作。CDは全曲ミックスされていますがアナログは一曲ずつ分割されています。残念ながら金銭的事情のためアナログは未購入…。

7.Moodymann / Picture This
ムーディーマンの新作はまさかのフリーダウンロードということでとても嬉しかったです。コチラ(http://www.scionav.com/collection/947)で落とせます。シンセを多用した80年代っぽいブギー調な曲など、普段聴けない側面も見られましておおっと思いました。早くアナログで聴きたいです。

8.Kendrick Lamar / good kid, m.A.A.d. city
待望のメジャーアルバムは期待を全く裏切らない渾身の出来で、新しい風がびゅーんと吹いた嬉しさと、それをリアルタイムで眺める事の出来るワクワク感に打震えております。歌詞に関しては多くの人がレビューしていますが、プロダクションも音数少なくかっこいいと思います。

9.P&PRECORDS / HITS HITS HITS
70年代アンダーグラウンドディスコの雄、パトリック・アダムスとピーター・ブラウンが運営していたP&Pレーベル関連の音源をどどーんと15枚組CD BOXにして集めたもの。〆て4千円という嬉し過ぎて鼻血ブーなお買い得お値段でビックリ仰天。お買い得ですよ奥さん!思えば昔はアナログで7インチBOX SETとか初期ラップ音源まとめたコンピとか買っていたよなあ…(遠い目)アナログシンセがピュンピュン飛び回るおなじみの作風のディスコ音源もあればファンク、ソウルバラード、果てはそのカラオケバージョンまで色々あります。どれもこれもささっと作っただろうっていういい湯加減のざっくりとした仕上がりが素晴らしいです。

10.ILL THE ESSENCE / CIRCUS BEATS
熊本のビートメーカーILL THE ESSENCEのビートテープです。こちらもaiwabeatz同様、古いサンプラーで切った貼ったを繰り返した挙げ句もはやヒップホップの向こう側に突き抜けてしまった素晴らしい音世界を展開しています。BUN、DAKIM、RAS G、SAMIYAMなどのビートミュージックがお好きな方には是非聴いて頂きたい作品集です。コチラ(http://beattrainrecordings1.bandcamp.com/album/circus-beats)で購入可能です。









2012年以前にリリースされた作品で、よく聴いた音楽

The Caretaker / An Empty Bliss Beyond This World
EL COCO / Dancing In Paradise
SIERRA LEONE MUSIC
Roy Ayers / Lots Of Love
Edwin Birdsong / Dance Of Survival

The Caretaker / An Empty Bliss Beyond This Worldは昨年の作品を今年購入したものです。SPレコードをサンプリングしてループさせた、レコードノイズのバチバチが心地良いアンビエント作品です。その他の作品はレコードで所有している物で、データ化してiPhoneに入れてよく聴いていました。










今年のこの1曲

Crue-L Grand Orchestra / Spend the Day Without You (Eye Remix)

こちらもアナログで持っている物をデータ化してよく歩きながら聴いていました。山塚アイによる多幸感溢れるサイケデリックなリミックスで原曲よりも好きです。
アナログはやや手に入れにくいですが、ちょこちょこと細部の異なる別バージョンのリミックス音源が「Crue-L Future」というコンピに収録されています。iTunesでも買えます。















ライブ、イベント等々で良かったもの
田舎に引っ越した事と、結婚し家庭を持った事と、土曜日が仕事で潰されがちな事から、どこへも行かない一年でした。
これまでの人生でこのような年は初めてです。いつか上手に時間をやりくりしてどこかへ遊びに行きたいです。










自己紹介
DJやったりビートメーカーやったりしてます。2012年は結婚&引っ越しで開店休業中でした。2013年は頑張ります。
とりあえずビートメーカー仲間とアナログでコンピ出す事になり、殆どの作業は終わり後は現物を待つだけといった状況です。











2012年はどんな年?
私生活がごちゃごちゃしてたなーという事、結婚式ってムチャクチャお金かかるんだなーという事、自分が姓が変わる事になり本当にメンドクサイ思いをした事、などです。
そして世の中はどんどんダサくなっていくなーと。ネット右翼みたいな阿呆大嫌いなのに、それが総理大臣やっているって勘弁して欲しいですね全く。
来年は吹き荒れるバックラッシュの嵐を逆に向けてやりたいもんです。













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