おれ的わたし的2008ベスト


■お名前
ウツボカズラ   ウツボのはてな日記 





■2008年にリリースされた音楽で、良かったものベスト10

・菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール / 記憶喪失学
・ワールド・スタンダード / Canon
・福岡史朗&ハム / ULALALA
・浜口茂外也 / 月影の恋
・鴨田潤 / ひきがたり


菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『記憶喪失学』は変わった作品です。
初めて聴くひとにとっては、リズム構造が複雑で、実験的な印象を与えるでしょう。
不協和音も多用しており、不穏さや甘美で退廃的なイメージを併せ持つ曲想は、
菊地ソロ『南米のエリザベス・テイラー』(2005年)以後、一貫しています。
日本ポップス界での現役エキゾ派はこのグループくらいかもしれません。
(若者連ではサケロックなんかがいますが)
前作『野生の思考』からは、ピアノ、ベース、バンドネオンの各プレイヤーが
入れ替わったことで、サウンドは幾分尖った感じに変化しましたが、
生演奏でないとその違いは分かりにくいかもしれません。
引き続き、作編曲家の中島ノブユキ氏も健在です。

ワールドスタンダード(鈴木惣一朗)の新譜は久しぶりに聴きました。よい塩梅です。
実家に持って帰ったら100%オレンジファン(本作のイラストと装丁を手がけている)の妹が気に入りました。
ワルスタの音楽同様、100%オレンジの作品もがんこですね。がんこというのは、なかなか妥協しないということです。
したがって、ワルスタの音楽を聴くと、こだわりが持つ功罪を、折に触れて考えます。
『Canon』は、聴き手に、近年のビートルズカバー集『りんごの子守唄』シリーズに通じる、
静謐で穏やかなムードが安らぎをもたらします。
深い静けさは、この10年ほどのワルスタの音楽に一貫していますが、
そこに常にこの世の闇や生きる痛みにかかわりのある暗さが同居しています。
花音(かのん)と漢字を充てているようですが、『Canon』(正典)というタイトルとも読める。
このタイトルは凄いなあ。よほどの自信作なんでしょうね。
ワールドスタンダード(世界標準)のキャノン(正典)という文字の並びは、
アイロニーとしてとらえられてしまいかねない...。
いずれにしろ、惣一朗伯父は、まじなのでしょう。
女声コーラスの重ね具合が、手編みセーターの網の目のような細やかさで、実に本気を感じます。

福岡史朗&ハム『ULALALA』。名作です。
福岡さんの声がある日突然聴きたくなり、ライブに2度行き、アルバムを購入。
なんとも言えないビートル汁。そして歌詞の素晴らしさ。
生活感とシュールなセンシティビティが混在している唯一無二の日本語詞だと思うな。

夜道を散歩しながら堪能したいものですが、果たせていません。
ついつい自宅のiTunesで再生してしまいます。だめだなあ。

浜口茂外也のニューアルバムはひっそりとBRIDGEからリリースされていました。
クルーナー風の歌唱で、大滝詠一ファンにもオススメ。(大滝さんの声が好きな方ぜひどうぞ)
ほとんど宣伝もされていない地味な作品ですが、
滋味に溢れるラテンナンバーが、洒脱なアレンジで並びます。悪くないわけがない。
しかしBRIDGE(http://bridge.shop-pro.jp/)よい仕事しますね。
2006-2007年にかけては『日本のジャズ・ソング』シリーズのCDリイシューもあったし。
今後も引き続き注目すべきレーベルです。

鴨田潤『ひきがたり』は11月に石井さんのミックス@8tracks(いいですよ。ぜひ)で聴いて気に入ったのでカクバリズム通販にて購入。代引2340円。すばらしい。
うーん。イルリメ鴨田氏は実は喉声ですんごいオザケンに似てるんですよね。
日本の洗練されたフォークソングのピープルツリーとして、加藤和彦→小沢健二→鴨田潤って入れたい。








■2008年にリリースされた作品以外で、よく聴いた音楽

・かえる目 / 主観
・スタニスラフ・ブーニン / J.S.Bach Album
・スガシカオ / Sweet
・クレイジーケンバンド / GALAXY
・アン・サリー / Day Dream
・チャック・ベリー / BEST of BEST
・ビートルズ / Anthology 1
・サンボマスターは君に語りかける


かえる目は、2007年のおれわたしで複数の方々が取り上げられていたので聴きました。
聴いてぶっとびました。6月くらいまでヘビーローテーションでした。
mapの小田さん福田さんありがとうございます(勝手に感謝)。

仕事が辛いときにも、かえる目を聞きながらかえる僕。
かえる目と一緒に、あの寺に帰ったりしていました(脳内で)。
待望のセカンドアルバムが2009年リリース予定らしいので楽しみです。


スガシカオ『Sweet』は10年ぶりくらいに聴きなおしましたが、名作ですね。素晴らしい。
CKB『Galaxy』は10月一杯よく聴いていました。これもエキゾ&アーベインで素晴らしいんだなあ。
10月から12月にかけては、アン・サリーにお世話になりました。
アンさんの美声と繊細なアレンジに身も心も夜毎、強烈に解毒されていました。
最初は洗練され過ぎておりつまらないと思ってばかにしたのです。
なのにまるで中毒していました。お恥ずかしい限りです。
アンさんの曲を聴きながら、床に着く日もたくさんありました。


チャック・ベリーのリズム、ビートルズのリズム。
今年は、ロック以降のリズムとロック以前のリズムについていろいろと考えさせられました。
わたしはロックのリズムはほとんどダメなのです。とくにファンキーでない8ビートはいけません。

しかしロックンロールはたぶんOKなのです。
チャック・ベリーOKで、ストーンズはNGです。
ストーンズはNGですが、ビートルズはOKです。
なぜなのか。たぶんリズムのせいです。
ブギウギのリズム構造について研究したいなあ。
そうすると音楽がより豊かに捉えられるようになる確信がある。


サンボマスターは聴いてビックリ。
山口隆のソングライティングについては注目しましょう。
ただの暑苦しい芸風のインテリロケンローラーではないですな。
そのうちアイドルに楽曲提供とかして弾けそうな気が・・・妄想かもしれませんが。

あとはバッハとかビル・エヴァンズとか和田アキ子とかいろいろ聴いてましたが、
もう十分長いので省略します!





■今年のこの1曲
kihirohito / 修羅礼賛 『護法少女ソワカちゃん』より

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1934686

国内では、動画共有サイトニコニコ動画を中心にDTM(初音ミク)作品の盛り上がりがありますが、
今年を記念するのはこのkihirohito氏の「修羅礼賛」でしょう。
むろん他にもあるんですけど、考え出すと切りが無いので、敢えてこの作品ってことにします。

アングラ臭のせいでとっつきにくいものも多々ありますが、引き続き、ニコニコ動画での
DTM作品の動静については注目していきたいものです。
(実態はみな音楽+映像作品なので、音楽単体で作品として取り扱うのは実は難しいのですが)

ニコニコ動画のDTM作品でおもしろいのは、
アマチュアがアマチュアの曲をごく自然によいな、と思ってカバーしているところ。
こういうのを歴史的なところに突っ込む必要は必ずしもないんだけど、
ヴァーチャルな歌垣感っていうか、本歌取りっていうんでもないけど、
すごくプリミティブな歌のこころざしが見受けられます。
こういう動きって心底面白いと思いますよ。
もっと発展していくといいなあ。

kihirohito氏の作品では、「千々石ミゲル友の会のテーマ」も素晴らしい。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2587006






■ライブ、イベント等々で良かったもの

音楽系
・ふちがみとふなと@武蔵小山アゲイン(1月13日)
・菊地成孔ダブ・セクステット@東京キネマ倶楽部(3月19日)
・野宮真貴@青山スパイラルホール(4月5日)
・コシミハル@新国立劇場(8月8日)
・サタデーイブニングポスト@下北沢ベースメントバー(4月28日)
・アジアン・ミーティング・シンポジウム@映画美学校
・菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール@渋谷オーチャードホール
・かえる目@東神田泰岳ビル

ふちがみとふなとはこの1年で都合3回ほどライブに足を運びましたが、
まだ寒いこの頃、武蔵小山に行った道すがら、
薄暗い駅前、石川茂樹さんの小さなお店に
老若男女が詰まっていたこと、演じされた音楽とその前後の風景を
いまでもよく覚えているのです。

野宮真貴のリサイタルは素晴らしかった。
音楽監督が菊地成孔で、スパンクハッピーの葬送と同時に
退廃的な美学に彩られたデカダンショーが行われ、
いやもうなんというか、翌日も当日券目当てで行ったのですが。
目の前で売り切れました。きっと映像化されないのだろうなあ。

コシミハルは7年ぶりくらいに、古い友人と行きました。
相変わらず、ハイレベルで品のいいステージングでした。
これは成り行きで2日連続で行きました。ギョーカイジンが多かった。
関係者だけに占有させておくにはもったいない限りです。

サタデーイブニングポストは物凄くマイペースで活動している
グループなので、ライブがある年はたくさんあったりない年はあんまりなかったりする。
この日の下北沢での演奏は極東のヴァン・ダイク・パークスという感じで
かなり個性的でしたが、ぜひ音源化してもらいたいものです。
バンド主宰の斎藤くんは古い友人のひとりですが、
SAITOCNO(http://www.saitocno.com/)という彼の奥さんとのプロジェクトで、2009年2月、英国からハイ・ラマズを招聘します。
ジャパンツアーが行われるので、気が向いた方はぜひ足を運んでみてください。
どういう音楽をやってるのかな?と思った方は彼らの『イッツ・オール・トゥルー』を聴いてみてください。
http://bridge.shop-pro.jp/?pid=2186928

AMSは大友良英さんが読んだ北京ソウルシンガポールからの
前衛音楽家を囲んだシンポジウム。
簡単にレポートしたので良かったらこちらをどうぞ。
http://d.hatena.ne.jp/utubo/20081012#p1

キクペペはいままでのベスト盤的なポップな選曲で、
酒を飲んでからいいあんばいでうとうとしながら観ました。
濃い音楽を求めてる人はぜひ彼らのリサイタルに行くべきですよ。
その魅力を説明しようとするとつむぐ言葉の際限がなくなると思うので割愛します。

かえる目は初めて生で観られたので。
1曲3-5分で2時間くらいのステージなのです。
睡眠不足で途中2,30分寝てしまったんだけど、至福のときでした。
かえる目の魅力は、細馬さんの品のいい屈託に尽きますね。
ギター宇波さんの、鋭い眼光にもはっとしましたが。



美術系
・薬師寺展@東京国立博物館平成館
・平常展@奈良国立博物館
・企画展:冒険王・横尾忠則@世田谷美術館
・ヴィルヘルム・ハンマースホイ展@国立西洋美術館

薬師寺展はよかった。上京したの脇侍だけだけど。日光月光菩薩は背面が美しいのです。
大昔のすごい技術だなあ、と。木下史青氏のよる展示のライティングもよかったです。
奈良は最近1年最低1回行っているような気がします。仏像を静かに見たい人にはいいですよ。
横尾展は近作のY字路をモチーフにしている画が、異世界に連れて行ってくれてよかった。
ハンマースホイは、かなり厭世的かつ静的な雰囲気の作品が多くて、マイナー・ポエトではあると思うんですが、
ある種鬱的なヴァイブレーションが漂う作風が21世紀のいま受けるってのはわかる感じするなあ。








■音楽以外でのベスト10
今年読んだ本のベスト10

ロバート・ワイマント / ゾルゲ 引裂かれたスパイ (西木正明訳、上下巻、新潮文庫)
萱野稔人 / 権力の読みかた (青土社)
平野啓一郎 / ディアローグ(講談社)
松岡正剛 / 17歳のための世界と日本の見方(春秋社)
岡田利規 / わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮社)
岡本太郎 / 太郎に訊け!(青林工芸舎)
筒井康隆 / ダンシング・ヴァニティ(新潮社)
木原武一 / ぼくたちのマルクス (ちくまプリマーブックス)
吉田豪 / 男気万字固め(幻冬舎文庫)
片山杜秀 / 近代日本の右翼思想(講談社選書メチエ)

ここ数年は大人向けのフィクションをほとんど読まないんですが、『ダンシング・ヴァニティ』は
アンビエントテクノみたいな音楽性があってとても素晴らしいと思いました。反復とずれによって構成される小説。
大江健三郎賞を受賞した岡田利規は素晴らしいです。
時間についての着眼点、時間と空間の関係性と切り取り方についてかなり意識的に考えている作家ですね。
先鋭的な演劇畑の人だから納得がいきます。
岡本太郎は『美の呪力』 (新潮文庫)もなかなかよかった。近代批判とあふれるポエジー。
『太郎に訊け!』と併せて読むといいですよ。






■自己紹介

1980年9月17日生まれ、28歳。
「おれわたし」には、飛び石で5年目の参加です。
月日が経つのは早いですね。


近年1年に10枚も新譜で良いものがないです。
1枚でも、いや1曲でもあれば音楽に感謝すべきなのでしょうが、
しみじみそう思ってしまうのです。
わたしが聴くものが、過去の作品に偏っているせいもあるのですが、
新奇な要素を音楽に求めなくなっているのかもしれません。
基本的には「温故知新」の気持ちでリスニングしています。

<おおまかなファン歴>
すぎやまこういち 20年
細野晴臣     14年
バッハ       10年
菊地成孔      6年







■2008年はどんな年?

CDはいっぱい買ったけど、一言で総括すると「現状維持」。停滞してました。
音楽の選び方も、生活も保守的になってる気がします。
いろいろと迷ってしまうのがこわくて、現状維持になってしまうんだな。
趣味における態度ってのは、生活全般に押し広げて共通に言えることだと思います。















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